東京地方裁判所 昭和27年(ワ)1786号 判決
原告 長沢徳太郎
被告 山西清一郎
一、主 文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「原告が被告から交付を受けて所持する別紙写記載のような委任状は真正に成立したことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は不動産売買の斡旋を業とするものであるが、被告は昭和二十五年九月頃原告に対し当時その所有であつた東京都葛飾区本田宝木塚町十五番地の四の宅地六百三十五坪三勺の分譲及び分譲代金の授受に関する一切の行為を委任し、その委任を証明する別紙写記載のような委任状を交付した。しかるに、被告はその後右委任状を否認するに至つたので、その真正に成立したことの確認を求めるため本訴に及んだ次第であると述べ、被告の主張に対し、被告が昭和二十五年十一月頃前記宅地を他に売却し、現在その所有者でないことは認めると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実は全部否認する。被告は昭和二十五年八月十日原告主張の宅地を訴外小管福治から買い受けてその所有者となつた。しかして、被告はその内約二百坪の地上に浴場を建築することを企図するに当り、右売買の斡旋をした原告に対しその許可申請の手続を依頼したところ、原告は同月十五日右申請手続をするには委任状二通を要すると称し被告にその交付を求めたので、被告は二通の白紙に捺印してこれを原告に交付したが、原告主張の委任状は、実は、原告がその一通を利用して偽造したものに過ぎないのである。なお、原告主張の宅地は昭和二十五年十一月他にこれを売却し、現在は被告の所有ではないと述べた。<立証省略>
三、理 由
書面の真否確認の訴はその目的たる書面の真否確認によつて直接に現在の原告の権利又は法律上の地位について存する危険又は不安を解消することができる場合に限つて許される訴であつて、その確認だけでは未だかような危険又は不安を解消することができず、その解消には更に進んで当該権利又は法律関係自体の確認を求める必要のあるような場合には許されないものと解するを相当とするから、本訴は果してこの要件を具備するものであるか否かについて考えて見るに、原告が被告からその分譲及び分譲代金の授受に関する一切の行為を委任されたと主張する宅地がその後他に売却され、現在被告の所有でないことは当事者間に争がないから、被告は右売却と同時に原告主張の宅地の処分権を失つたものと認めるべきであるが、そうすると、この処分権に基く行為の委任は右売却と同時にその目的を失い終了したものとする外はないから、今日になつて原告主張のような委任を証明するための委任状の真否を確認して見ても、それは、原告が過去においてその主張の宅地分譲等の代理権を持つていたか否かに対する一つの有力な証拠方法を提供し得るだけで、現在の原告の権利又は法律上の地位に存する危険又は不安の解消には何の関係もないものといわなければならない。右委任状の成立確認が原告に有利になる場合をしいて考えれば、それは何らかの理由によつて被告の前記宅地の売却が被告の債務不履行となり、原告がこれを理由として被告に損害賠償の請求ができる場合であるが、その請求を実現するためには原告は進んでその請求権自体の確認を求めなければ何の利するところもないことが明かであるから、原告の本訴は結局その利益を欠くものといわなければならない。
よつて、原告の本訴を不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 田中盈)
委任状の写
[印紙] 委任状
一、拙者儀長沢徳太郎ヲ以テ代理人ト定メ左ノ権限ヲ委任ス
一、葛飾区本田宝木塚町十五番ノ四所在宅地六百三十五坪三勺分譲並ニ売却ニ対スル代理行為一切及金銭ノ受渡シ等一切ノ代理行為
右委任状依テ如件
昭和二十五年九月 日
千代田区神田末広町四四
山西清一郎[印]